若手の早期離職に歯止めを!新制度などで成長促す

人材育成マネジメントモチベーション向上職場活性化 2020.10.23

 

 

○転職者に聞く お願いセールスに限界、“配属格差”も○

 若手行職員は何を思って職場を去ったのか。彼らの声からは金融界の旧態依然とした営業態勢が垣間見える。

 「入行前は顧客のニーズに応じて融資するイメージだった」と振り返る元都市銀行行員(30代男性、2015年退職)。しかし、「入行してからは銀行の都合に合わせた〝お願いセールス〟が多く限界を感じるようになった」と明かす。

 元地方銀行行員(30代男性、14年退職)も「法人営業は目標ありきで地域に貢献しているとは思えなかった」と述懐し、本気で顧客に向き合っていない銀行の姿勢に失望した。また、「初任地で良い部署や支店に配属されないと出世の道から外れる」と〝配属格差〟も離職要因の一つにあげる。

 金融機関側にとっても悩ましい問題だ。ある地銀の人事部長は「希望の公務員や企業の選考に落ちて銀行にそのままいるケースが多く、そもそも銀行に愛着がないようだ」と指摘。ただ、同部長は「離職を行員の問題だけにせず、魅力ある組織づくりにも目を向けていかなければならない」と襟を正す。  金融界にとって、若手行職員が本気で顧客に向き合うための営業態勢といった環境整備が離職防止に向けた喫緊の課題だ。

 

 

関東甲信地区金融機関

 若手行職員の早期離職になかなか歯止めがかからない。企業の人手不足や転職環境の整備に加え、従業員の価値観も多様化しているからだ。金融機関も危機感を募らせ、離職防止や働きがいの向上へ様々な手を打つ。そこで、対策に特色のある関東甲信地区の地方銀行や信用金庫の動きを追った

新制度などで成長促す

 

 

スマホで手軽に学習

千葉銀では各部署が若手行員に仕事内容を解説したり、スキルや話法なども伝授する動画を制作し、
スマートフォンで手軽に閲覧できるようにしている。

 「銀行にどういう仕事やキャリアの選択肢があるのか」と、将来に漠然と不安を持つ若手行員は少なくない。一方で、スキルアップを目指し自発的に取り組む若手もいるが、銀行側がフォローできずに結果的に辞めていくケースが後を絶たない。

 千葉銀行は、そうした若手のやる気に応えるため2020年度から「キャリアセレクト支援プログラム」を展開。自ら立候補して行内外で専門スキルを習得できる「トレーニー制度」に加え、他部署の業務を理解する研修も充実。本部の中堅行員を講師に、キャリアや仕事のやりがいを若手に紹介する休日ウェビナーを定期的に開いている。

 また、成長意欲を促すツールとして、商品知識の解説やロールプレーイングなどをスマートフォンで手軽に見られる「Teachme Biz」(スタディスト社)(写真)の活用にも注力。営業店や本部各部が作成した500種類以上の動画を取りそろえ「いつでもどこでも学べる」環境を整備した。

 

“ほめる”達人を育成

 職場でのコミュニケーションが不在するなか、管理職には部下のやる気や強みを引き出す手腕が求められている。山梨中央銀行では管理職向けに、“ほめ達”研修を導入。「できて当然」という考え方を排除し、部下をほめながら長所を伸ばすことが狙い。上司と部下との「ふれあい面談(1on1ミーティング)」も年3回以上実施し、働きぶりを評価。

 さらに、20年度から研修体制を見直し、少人数制の「個別指導型研修」を導入。希望すればいつでも本部専担者による業務別研修が受講できる。少人数のため、受講者のレベルに応じて内容も変えられる。  きらぼし銀行では入行3年目までの業務目標を廃止。「育成期間」として目標にとらわれず、自ら考えて顧客ニーズに沿ったコンサルティングができる人材育成に取り組むためだ。また、京葉銀行では管理職が一人ひとりの部下の顔を思い浮かべてじっくりと考える「人財育成を考える日」と称して休日セミナーを年1回開催している。

 

メンター2人が指導

 同期や年齢が近い先輩行員とのつながりも不可欠。特に20年度は、コロナ禍で同期の仲を深められる集合研修が減少し、「相談できる相手がいない」と嘆く新人も少なくない。

 武蔵野銀行では20年度から、ベテランと若手の行員2人が新人を指導する「ダブルメンター制度」に移行。仕事の〝イロハ〟を教えるベテランと、困ったときの相談相手となる若手が一体となって全面的にバックアップする。

外部講師(中央)の指示に従ってリズムゲームを楽しむ、さがみ信金の新入職員(10月6日、本店営業部)

 さがみ信用金庫は10月、座談会形式の新人研修を実施。「厳しい上司にほめられた」エピソードなど、成長を共有する場にした。研修の後半には、マラカスを使ったリズムゲームも。定期的に行うことで「本音を話すことで業務上のストレス発散」(人事部)につなげる。   米調査会社ギャラップ社の調査では、仕事への熱意や働きがいを意味する「エンゲージメント」が高いほど生産性や収益性が向上するほか、離職率低下にもつながるという。各金融機関とも離職防止に様々な手を打つなか、今こそ真価が問われる。

  

 

外部企業と連携、行員の士気高揚狙う

 金融機関の離職防止を支援する教育研修やコンサルティングを手がける外部企業が注目されている。

 日本マンパワー(東京都)は若手のやる気を引き上げる「ジョブ・クラフティング」と業務効率を高める「経験学習」を組み合わせたプログラムを展開し、既に約20の金融機関が導入済みだ。プログラムでは、行員自身が仕事を徹底的に見つめ直すことが肝となる。研修で「地域に貢献する」など、将来の〝なりたい姿〟を確認し、現在の業務の関係性を見出すことでモチベーションを高める。同時に、現場で自身が考えたアイデアを試行する機会をつくり、具体的な経験を振り返りながら仕事のコツを習得する経験学習サイクルを学ぶ。

 上司の理解を深めることも重要。部下の業務に対する考え方や習熟度を知ることで、成果につながる具体的な指導が行えるからだ。仕事にやりがいを見出しながら成果を上げる同プログラムによって多くの行員が「以前より仕事のモチベーションが上がった」という。

 プラスアルファ・コンサルティング(東京都)の人事マネジメントシステム「タレントパレット」はデータを人事に活用する。従来の人事情報に加え、エモーショナルデータや動的データなど、人間の内面性に関する情報を“見える化”するのが特徴。特にアンケートで「残業」「疲れ」「暇」など、過去の離職者に多くみられたキーワードに点数を付け、一定基準に到達した際に通知する仕組みが離職防止に有効だ。ある企業では18%の離職率が導入後すぐに13%台まで引き下げることに成功している。

 サイダス(那覇市)の「1on1 Talk」アプリは上司と部下が対話をし、相互理解を深められる。「部下の名前をフルネームで書ける」「苦手な食べ物を知っている」などパートナー診断もある。ライトワークス(東京都)はe-ラーニングシステムでタレントマネジメント機能をサービス提供している。

 行員のモチベーションアップや離職の予兆察知などを手助けする外部企業の役割は一段と高まっている。