原点回帰という危うさ

組織・体制職場活性化 2023.07.26

 私は仕事柄日々移動をしていますが、最近出張中にキャッシュで支払うことがほとんどなくなりました。新幹線や飛行機はもちろんのこと、ホテルも事前カード決済ですし、タクシーもキャッシュで支払うことは稀です。駅周辺での食事は、交通系ICで支払えますし、お財布がどんどん小さくなっていくのも頷けます。人間が行う作業に関しては、これからAIが活用され、人間の最大の付加価値は「考える力」へとシフトしていくのではないかと思います。時代は確実に変化しているなか、よく上層部の方々から「原点回帰」という言葉を聞くことがあり、私はその言葉にいつも危うさを感じています。

お客様との信頼関係を築く、お客様の声をしっかり聞くという「真理」は変化することはないと思いますが、営業のあり方や組織のあり方は時代に合わせて「変容」させていかなければなりません。

 かつて、1908年にフォードT型が発表され、1913年に量産化が開始されたことにより、社会にモータリゼーションが開花しました。日本は第二次世界大戦後になってからでしたが、自動車産業は日本の基幹産業としても発達しました。その際に、馬車にこだわりつづけ組織を変容できなかった会社は当然自然淘汰され、「HERMES」のように馬車の衰退に着目し、馬具を作ることからバックや財布へと転換できた企業は今でも生き残っています。そして、インターネットの普及は1993年。あれからもう30年がたち、私たちの生活様式は一変しました。

 これから自動車は環境と安全に配慮した自動運転へと変化し、車社会も変化しつづけます。インターネットの世界でも、2025年にはすべての家電がセンサーによって遠隔で自動的に連動して「スマートハウス」が一般的になったり、スポーツ観戦が選手や審判の目線で見られるようになったり、離島でも手術ロボットの遠隔手術により高度な医療が受けられる時代がくると言われています。

 そのような変化の中で、過去の成功体験に縛られその時の基準をベースにして成果が出せないのは昔のように行動してないからだ、ではあまりにも現実ばなれしているように思えます。「昔のようにお客様にもっと会え」「お願いしてこい」で、本当の持続的な成果は得られるのでしょうか。短期的に成果がでたとしても、その間に組織全体が疲弊してしまいます。人間が残された付加価値、「考える力」をもっと集結させ、お客様がどのようなことを望んでいるのか、そしてどのようなチームが、活き活きと前向きに動いていけるのか、しっかりと分析する必要があります。分析した結果をみて、組織の方向性や組織のサービスをしっかりと今の時代に合うよう変えていかなければ、時代に取り残されてしまうかしれません。

「原点回帰」。決して、昭和や平成の時代に戻れということではありません。過去の成功体験の「真理」だけをしっかりと胸に刻み、過去の経験は思い出にかえていくのはいかがでしょうか。

 そして、私たちは、「今」を生きていて、より良い未来を創っていくことが、大切なのではないでしょうか。

 

株式会社シー・マインド 宮道京子